COP27活動報告:「脱成長」をテーマにしたイベントに登壇 ①緑の経済成長と新植民地主義

11月17日に、ドイツのブースで「脱成長」をテーマにしたイベントが開催されました。気候正義プロジェクトのメンバー、山本健太朗とFridays For Future Bangladeshのファルザナ・ファルク=ジュムが登壇し、マタバリ石炭火力発電事業への反対キャンペーンから見えてきたことを報告しました。

 記事①は、研究者の視点からの脱成長の必要性と、つぎに記事②は、活動家の視点からの脱成長の必要性についてです。

(文・山本健太朗)

登壇者:

ティモテ・パリク(研究者・著者)

ジョヤスリ・ロイ(国連IPCC科学者)

ファルザナ・ファルク=ジュム(気候活動家・Fridays For Future Bangladesh/MAPA)

山本健太朗(気候活動家・気候正義プロジェクト代表)

カトリン・ヘンネベルガー(ドイツ緑の党国会議員)

ライサ・フランサ(Youth4Nature ヨーロッパ・中央アジア統括)

①緑の経済成長と新植民地主義

 イベントは、これまで脱成長に関する書籍を執筆してきた、フランスの研究者・ティモテ・パリクさんのスピーチから始まりました。パリクさんは、今回のCOP27も含め、気候変動の政策決定の場で大きく宣伝されてきた「ディカプリング」と「緑の経済成長」を批判しています。

 経済成長によって、CO2の排出といった環境への負荷が増大します。しかし「緑の経済成長」を提唱する人々によると、経済が成長しても、新たな高効率な技術によってCO2の排出といった環境への負荷を減らすことができるということです。そして彼ら彼女らは、現時点でイギリスを始めとしたヨーロッパの国々では、この「経済成長と環境負荷の増大の切り離し(ディカプリング)」が、できていると主張します。

 しかし、パリクさんは、このような主張は都合の良いデータを用いているに過ぎないとします。ヨーロッパ域内の都合の良いデータだけを見せれば、地球と調和の取れた緑の経済成長が実現しているかのような錯覚を与えることができてしまいます。現実には、ヨーロッパはこれまで通り、大量生産と大量消費に基づいた経済のシステムの中にあり、地球に対する負荷は決して低くなっていません。ヨーロッパは、環境への負荷を生み出す生産過程を、グローバルサウスに移転したに過ぎないのです。

 国連IPCCの報告書においても、大量消費の問題が指摘されていて、特に世界の裕福な人々の消費が問題にあげられています。報告書の執筆に携わり、本イベントに登壇した科学者のジョヤスリ・ロイさんは、気候危機の加速を止めるために、「ステータスのための消費」に規制をかける必要があるとしました。「混雑した道路で、見栄を張るために大きな車に乗ることに、どのような合理性があるのでしょうか」とロイさんは疑問を呈します。

 

 IPCCの報告書でも、世界の収入上位一位が、世界全体のCO2排出量の15%をも占めているとしています。そして、ステータス品を生産するのではなく、現時点で基本的なニーズを満たしていない人々のためのサービスを拡充していくことを提唱しています。

 そして、登壇者の何人かは、帝国主義と(新)植民地支配に支えられながら、グローバルサウスの資源を奪い、グローバルサウスに汚染や気候危機の負の影響を押し付けて進められてきた、経済成長のシステムを変えていくために、脱成長が必要だと指摘しました。

 

 次の記事では、私とバングラデシュのファルザナ・ファルク=ジュムさんの発表から、なぜアジアで脱成長が必要なのか、書いていきます。