声明
2023年12月5日
岸田文雄内閣総理大臣
環境省 伊藤信太郎大臣
経済産業省 西村康稔大臣
小泉進次郎議員
Fridays For Future Japan(FFF Japan)
COP28に際して若者の緊急声明
―1.5度目標やってるふりはもうやめて―
11月30日から12月12日にかけて、気候変動についての国際会議COP28が、アラブ首長国連邦で行われています。この会議では、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度以内に抑える、という1.5度目標を達成するための取り組みが話し合われます。しかし、世界の交渉も、日本政府の取り組みも、1.5度目標に真剣に取り組んでいるものとは言えず、「やってるふり」に見えます。
この状況に抗議するため、私たち、若者中心の気候変動運動、FFF Japanは日本政府に以下の7つのことを求めます。
(1)期限を設けた化石燃料の段階的廃止を日本と世界で
2021年のCOP26において石炭火力発電の段階的削減が決まったものの、それ以降、石炭以外の化石燃料を含んだ合意や、削減ではなく廃止についての合意、削減/廃止時期についての合意の形成は、世界全体では未だできていません。COP28を機に化石燃料の売り込みをしようとしている人もいます。日本政府も化石燃料の廃止時期は表明しておらず、温室効果ガスの早急な削減に資さない水素、アンモニア、CCS(二酸化炭素回収・貯留技術)の活用や高効率発電により、化石燃料を使い続ける、まさに「やってるふり」な方針です。
第1回グローバル・ストックテイク(世界全体の取組の進捗を5年ごとに評価する仕組み)の統合報告書によると、温室効果ガスのネット・ゼロ排出達成のためには「排出削減対策が取られていない全ての化石燃料の段階的廃止」(※1)が必要です。日本政府が、国内での化石燃料の廃止時期を決めるとともに、COP28で世界が明確な期限を設けて化石燃料の廃止を合意できるよう交渉することを求めます。
(2)再生可能エネルギー100%社会への公正で安心安全な移行を日本と世界で
化石燃料を廃止し、かつ、甚大な事故の可能性や核廃棄物、労働者の被ばくの問題を抱える原子力も活用しない社会を作るためには、再生可能エネルギー100%社会への移行が必要です。また、その移行の速度としては、2030年までに2022年比で世界の再生可能エネルギーの設備容量を3倍にすることを求めます(※2)。
同時に、このような再生可能エネルギー社会への移行を、公正で安心安全なものにすることが重要です。火力発電、原子力発電関連産業に従事する方々や、再生可能エネルギーによる発電施設が住まいの近くに建設される方々を置き去りにしない、公正な移行が日本でも世界でも進むことを求めます。また、再生可能エネルギー100%で安心安全な社会に移行するためには、蓄電や需要調整の技術開発や徹底的な省エネ、送電網の整備などが必要です。
これらの変化を起こすための日本国内の取り組みの強化と、COP28での交渉を求めます。
(3)NDCの強化を日本と世界で
今年のCOP28では、第1回グローバル・ストックテイクの成果文書が出されます。その成果文書の基盤となる統合報告書によれば、現在の各国のNDC(温室効果ガス削減目標)は1.5度目標に整合していません(※3)。今まで日本や世界が「やってるふり」を続けてきたからに他なりません。第1回グローバル・ストックテイクの成果文書が、各国が今後策定するNDCや対策の強化に資するものとなるよう、日本政府は積極的に各国と交渉することを求めます。また、日本国内でも、NDCを1.5度目標に整合したものにすること、具体的には2013年比で2030年までに62%以上削減(※4)することを求めます。
(4)途上国への気候変動対策支援の強化を日本と世界で
1.5度目標の達成には世界全体で取り組む必要がありますが、「途上国」は気候変動対策のための資金や技術を「先進国」が持っているほど持ち合わせていません。「先進国」である日本を含む数々の国々は、「途上国」の気候変動対策支援を強化することを求めます。また、マタバリ石炭火力発電事業など、1.5度目標に整合しない大量の二酸化炭素を排出する火力発電事業を「高効率」「支援」と称して輸出することに反対します。
(5)気候正義の考えに基づいた損失と損害の基金の運用
昨年のCOP27で設置が決まった損失と損害の基金の運用ルールが、COP28初日に決定しました。早急な運用開始を歓迎します。既に気候危機は目に見えるものとなっており、その被害は特に適応力が「先進国」と比べて小さい「途上国」において甚大ですが、これまで大量の温室効果ガスを排出してきたのは日本を含む「先進国」です。最も気候変動の被害を受けるコミュニティの人々の損害に対し、「先進国」としての賠償責任を全うし、不公平さを正そうという気候正義の考えのもとで資金を運用することを求めます。
(6)気候変動対策の中心に人々の健康を位置づけることを日本と世界で
COP28では、「Health Day(健康の日)」が初めて開催されます(※5)。気候変動による私たちの心身の健康リスクが高まっているためです。例えば、気温上昇による熱中症患者の増加、気象災害による被害を受ける人々の増加、解決の見えない気候危機に対して不安を覚える気候不安症がみられるなど、様々な健康への影響があります。
こうした気候変動の健康への影響を重く受け止め、日本国内の取り組みとCOP28での議論に反映させることを求めます。例えばIGES(地球環境戦略研究機関)は、熱中症などの治療における医療従事者の能力を強化し、そのような疾患の治療を健康保険制度の対象にしていくことや、クリーンエネルギーの導入や持続可能な運輸などの緩和策によって大気の質を改善し健康のコベネフィットを生み出すことなどを提案しています(※6)。
(7)世界各地で行われている化石燃料に関する事業を辞めること
今、世界では、東アフリカでの巨大原油パイプライン、EACOP(East African Crude Oil Pipeline)の建設や、カナダでのコースタル・ガスリンク・パイプライン事業など、化石燃料に関する様々な事業が行われています。気候変動に寄与することはもちろん、その地域に住む人々への人権侵害や、その地域の環境破壊が報告されています。こうした事業から日本政府も世界も手を引くことを求めます。
FFF Tokyoの田原美優は次のようにコメントをしています。
日本は水素やアンモニアの混焼発電を重視する独自路線を突き進んでいますが、火力発電の延命に他ならず、1.5度目標に向けて「やってるふり」をしているようにしか見えません。また、今年のG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、石炭火力発電の廃止時期の明示に日本が反対しました。日本は国際交渉の場で世界の足を引っ張る交渉を行っています。今の各国の対策では1.5度以上気温が上昇すると言われているなか、これ以上「やってるふり」をしないでほしいです。温室効果ガスをあまり排出していないのに気候危機の影響を強く受けている経済的余裕のない人たちや、気候危機の時代を前に明るい未来を思い描けない若い人たちの声を聞き、気候危機対策の方針を根本から見直してほしいです。
[※]
1 Framework Convention on Climate Change, 2023, Technical dialogue of the first g
lobal stocktakeの6頁.
2 IEA, 2023, Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach
の80頁.
3 Framework Convention on Climate Change, 2023, Technical dialogue of the first g
lobal stocktakeの5頁.
4 Climate Action Tracker, 2021, 『日本の1.5℃ベンチマーク――2030年温暖化対策目標
改訂への示唆』の4頁.
5 IGES, 2023, 「気候変動で健康被害が深刻化:COP28で求められる行動」, (2023年12月1
日取得, https://www.iges.or.jp/jp/projects/cop28).
6 同上.
※声明の一部を12月8日に訂正しました。