エネルギー基本計画の閣議決定に対する追加声明文の発表

10月22日、日本政府は2030年電源構成について、再生可能エネルギー36~38%、火力41%(LNG20%、石炭19%、石油等2%)、原発20~22%、水素アンモニア発電1%とする計画*1を閣議決定しました。今後も継続的に排出されてしまう温室効果ガスによる気候変動の影響を考えると、今回の方針は決して受け入れられるものではありません。NGOや市民運動の行なったキャンペーンにより6400件のパブリックコメントが集められた*2と報告されていますが、それを踏まえた大幅な変化は見られず、市民の意見を無視した独断的な政策決定がなされてしまったことを私たちは強く批判します。(こちらの声明文は2021年7月に仮案が発表された際に公開した声明文を更新したものになります。)

 

■日米気候パートナーシップやG7コミュニケの矛盾

菅前首相は4月、アメリカのバイデン大統領の首脳会談の際に、日米気候パートナーシップ*3の発足を宣言しました。その中では1.5度目標を実現するために2030年までに整合性のある行動を取ることを約束しています。Climate Analytics*4は1.5度目標実現には2030年までにOECD諸国が石炭火力発電を停止する必要があると報告しており、国連のグテーレス事務総長も先進国に対する2030年までのフェーズアウトを求めています。しかし今回のエネルギーミックスにおいては2030年にまだ石炭火力発電の利用を行うことを明記しており、気候パートナーシップでの約束に明らかに矛盾しています。またG7コミュニケ*5では石炭火力発電が温室効果ガス排出の最大の要因だと一致をしているにもかかわらず、今回の仮案は日本が今後も石炭火力発電の利用方針を堅持し、1.5度目標に相反することを是認しているものといえます。

 

■化石燃料利用からの早期脱却を示す計画を

化石燃料を海外より大量輸入する日本においては、石炭はもとより石油や天然ガスを採掘するためのパイプライン建設による先住民の人権侵害や生態系の破壊という問題が隠れてしまいます。世界各地において化石燃料の採掘に歯止めがかかることから、本計画も化石燃料からの早期脱却を確固たるロードマップとして示すものでなければなりません。

中でも石炭方針に関して、日本のみが石炭火力発電を延命させてもいいなどという主張は罷り通るはずがありません。日本は毎年およそ12億トンものCO2*6を排出し、炭素予算を圧迫させてきた国です。現在発展を目指している国に排出量枠を残すという公平性を考慮しても、日本はいち早く石炭から脱却しなければなりません。また石炭は将来の座礁資産として知られています。石炭火力に拘泥すればますます投資額を回収できなくなり、将来世代は気候変動の被害者となるに加え、経済的な負担も課せられます。石炭火力発電所が増設されるとすれば尚更です。自然エネルギー財団*7、WWF Japan*8らは、それぞれ日本が2030年までに、安定した電力を確保しながらも石炭火力を段階的に廃止することは可能だとしています。

環境省は再生可能エネルギーは日本の現供給量の約2倍の発電ポテンシャルがあると報告*9しています。省エネルギーを徹底した上で、電化による電力需要の増加に対処し、より野心的な目標を掲げ再生可能エネルギー導入へ国を挙げて取り組むことを求めます。

日本政府が自然環境や地域住民の声を十分考慮した上で、再エネを推進し、化石燃料からの早期脱却のためにあらゆる施策を講じていけば、ジャストトランジション(公正な移行)を実現しながら、化石燃料への依存を克服することが可能です。

 

■エネルギーも気候正義も踏まえた公正な解決策に

原子力発電の利用についても、目標値には疑念が残ります。世界の3/4のウランは、オーストラリアやアメリカなどで先住民の住む地域やその近辺で採掘され、除染されずに地域の人々や土地を汚染してきました*10。また中間貯蔵施設の受け入れは地元の反対が根強く、交付金ありきで将来世代への大きな負担である廃棄物処理問題を先送りにするなど、倫理的に許容されるものではありません。そして経済的にも、安全対策費用の上昇、先行きの見えない核燃料サイクルのための設備費用による国民負担の増大や国際的な競争力の低下など含め、原子力発電には解決の糸口の見えない課題が山積みです。

 

今回のエネルギー基本計画は、都市から地方、現在世代から将来世代、裕福なものから貧しいものへの暴力といえます。大消費地である都心部のエネルギー消費のために、原子力発電や石炭火力発電による被害を受けるのは地方の人々です。化石燃料電源の温存による気候変動の悪化によって、住む場所・未来を奪われる人々の多くは、格差構造の中で声をかき消されてしまっています。誰も取り残すことのないよう、現在の気候不正義の状況を踏まえた公正な将来設計が求められています。

 

 

市民の声を無視しない政策決定を

今回のエネルギー基本計画の閣議決定は、市民の意見を反映した政策ではありません。資源エネルギー庁における議論でも産業界や経済界を代表する委員や官僚によって市民の声を反映せずに仮案がまとめられました。その意見に対して国民のフィードバックを受け反映させるはずの、仮案に対するパブリックコメントも形式化・形骸化され、約6400人の人々の声は公然と無視されました。本来ならばパブコメを踏まえて審議会を招集し、修正すべき点を国民からヒアリングをして議論するべきです。そして今後のエネルギー・気候変動政策の議論においても政策によって将来的に多額の経済的なダメージを被る市民、若者などを政策の立案段階から取り入れることを方針として導入するべきです。現在のプロセスでは民主主義は機能していません。


 

2021年7月、北大西洋沿岸を歴史的な熱波が襲いカナダでは49.6度*11を観測しました。タイでは9月から10月にかけて続いた大雨の影響で30万世帯以上が浸水*12しました。世界中で気候危機が顕在化しており、グローバルサウスの国々や社会的に脆弱な人々はこうした災害の最大の被害者となってしまっています。今後も温室効果ガスを排出し続けるエネルギーを選択することは、気候危機を引き起こし弱者の命を奪うことを意味します。

文化、社会を守るため、そして何より現在の格差構造によって苦しむ国内、世界の人々を守るため、1.5度目標に整合性のある政策を今後策定することを求めます。

参考文献

*1 経済産業省, 「エネルギー基本計画」, 2021,https://www.meti.go.jp/press/2021/10/20211022005/20211022005-1.pdf, 2021年10月25日閲覧

*2 ロイター, 「政府、エネルギー基本計画を閣議決定 再エネ30年度に36―38%へ」, 2021, https://jp.reuters.com/article/japan-energy-policy-idJPKBN2HC0D2, 2021年10月25日閲覧

 

*3NHK,「【全文】日米首脳共同声明」 , 2021 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210417/k10012980681000.html, 2021年10月25日閲覧

*4 Climate Analytics, “Coal Phase-out” 2021, https://climateanalytics.org/briefings/coal-phase-out/, 2021年10月25日閲覧

*5 外務省 「G7カービスベイ首脳コミュニケ より良い回復のためのグローバルな行動に向けた我々の共通のアジェンダ 」, 2021, https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100200083.pdf, 2021年10月25日閲覧

*6全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA), 「4-3 日本の二酸化炭素排出量の推移 (1990-2019年度)」, 2021 https://www.jccca.org/download/13334 、2021年10月25日閲覧

*7 自然エネルギー財団, 「2030年エネルギーミックスへの提案(1)」, 2021, https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_2030Proposal.pdf , 2021年10月25日閲覧

*8 WWF, 「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」, 2020, https://www.wwf.or.jp/activities/data/20201215climate01.pdf , 2021年10月25日閲覧

*9 環境省, 「我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル」, 2020, http://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/doc/gaiyou3.pdf, 2021年10月25日閲覧

*10 Harvard Kennedy School Belfer Center for Science and International Affairs. “Living with Uranium: The Impact of Uranium Mining on Indigenous Communities”, 2021. http://go.nature.com/37w5be6. 2021年10月25日閲覧

*11 毎日新聞, 「カナダで49.6度 熱波は『人為的な気候変動が要因』 論文発表へ」, 2021, https://mainichi.jp/articles/20210708/k00/00m/030/015000c, 2021年10月25日閲覧

*12 毎日新聞,「タイで洪水被害が拡大 30万世帯超浸水、首都バンコクでも警戒」,2021,https://mainichi.jp/articles/20211023/k00/00m/030/302000c,,2021年10月24日閲覧


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