2030年エネルギーミックス仮案発表に際しての声明

 

2021/07/21

Fridays For Future Japan

本日7月21日の総合エネルギー基本政策分科会において資源エネルギー庁事務局は2030年電源構成について、再生可能エネルギー36~38%、火力41%(LNG20%、石炭19%、石油等2%)、原発20~22%、水素アンモニア発電1%とする案*1を発表しました。今後も継続的に排出されてしまう温室効果ガスによる気候変動の影響を考えると、今回の方針は決して受け入れられるものではありません。

 

■日米気候パートナーシップやG7コミュニケの矛盾

菅首相は4月、アメリカのバイデン大統領の首脳会談の際に、日米気候パートナーシップ*2の発足を宣言しました。その中では1.5度目標を実現するために2030年までに整合性のある行動を取ることを約束しています。Climate Analytics*3は1.5度目標実現には2030年までにOECD諸国が石炭火力発電を停止する必要があると報告しており、国連のグテーレス事務総長も先進国に対する2030年までのフェーズアウトを求めています。しかし今回のエネルギーミックスにおいては2030年にまだ石炭火力発電の利用を行うことを明記しており、気候パートナーシップでの約束に明らかに矛盾しています。またG7コミュニケ*4では石炭火力発電が温室効果ガス排出の最大の要因だと一致をしているにもかかわらず、今回の仮案は日本が今後も石炭火力発電の利用方針を堅持し、1.5度目標に相反することを是認しているものといえます。

 

■化石燃料利用からの早期脱却を示す計画を

化石燃料を海外より大量輸入する日本においては、石炭はもとより石油や天然ガスを採掘するためのパイプライン建設による先住民の人権侵害や生態系の破壊という問題が隠れてしまいます。世界各地において化石燃料の採掘に歯止めがかかることから、本計画も化石燃料からの早期脱却を確固たるロードマップとして示すものでなければなりません。

中でも石炭方針に関して、日本のみが石炭火力発電を延命させてもいいなどという主張は罷り通るはずがありません。日本は毎年およそ12億トンものCO2*5を排出し、炭素予算を圧迫させてきた国です。現在発展を目指している国に排出量枠を残すという公平性を考慮しても、日本はいち早く石炭から脱却しなければなりません。また石炭は将来の座礁資産として知られています。石炭火力に拘泥すればますます投資額を回収できなくなり、将来世代は気候変動の被害者となるに加え、経済的な負担も課せられます。石炭火力発電所が増設されるとすれば尚更です。自然エネルギー財団*6、WWF Japan*7らは、それぞれ日本が2030年までに、安定した電力を確保しながらも石炭火力を段階的に廃止することは可能だとしています。

環境省は再生可能エネルギーは日本の現供給量の約2倍の発電ポテンシャルがあると報告*8しています。省エネルギーを徹底した上で、電化による電力需要の増加に対処し、より野心的な目標を掲げ再生可能エネルギー導入へ国を挙げて取り組むことを求めます。

日本政府が自然環境や地域住民の声を十分考慮した上で、再エネを推進し、化石燃料からの早期脱却のためにあらゆる施策を講じていけば、ジャストトランジション(公正な移行)を実現しながら、化石燃料への依存を克服することが可能です。

 

■エネルギーも気候正義も踏まえた公正な解決策に

原子力発電の利用についても、仮案の目標値には疑念が残ります。世界の3/4のウランは、オーストラリアやアメリカなどで先住民の住む地域やその近辺で採掘され、除染されずに地域の人々や土地を汚染してきました*9。また中間貯蔵施設の受け入れは地元の反対が根強く、交付金ありきで将来世代への大きな負担である廃棄物処理問題を先送りにするなど、倫理的に許容されるものではありません。そして経済的にも、安全対策費用の上昇による国民負担の増大や国際的な競争力の低下など含め、原子力発電には解決の糸口の見えない課題が山積みです。

 

今回のエネルギー基本計画は、都市から地方、現在世代から将来世代、裕福なものから貧しいものへの暴力といえます。大消費地である都心部のエネルギー消費のために、原子力発電や石炭火力発電による被害を受けるのは地方の人々です。化石燃料電源の温存による気候変動の悪化によって、住む場所・未来を奪われる人々の多くは、格差構造の中で声をかき消されてしまっています。誰も取り残すことのないよう、気候正義を踏まえた公正な将来設計が求められています。

 

今回のエネルギー基本計画仮案発表に際して、FFF Yokosukaの渡部瞳子(中学3年生、15歳)は「このエネルギーミックス案では私たち若者に明るい未来があるとは言えません。私にはまだ選挙権すらないため、たくさんの権利と特権を持つ大人たちが、私たちの未来をきちんと考えていないような判断をすることに強い憤りと失望を感じます。現在横須賀に石炭火力発電所も新設されており、日本は先進国として、また私たちの将来を決められる立場としては不適切な行動をとっています。次の世代に大人が行動を起こさなかったツケを回して良いはずがありません。」と話しています。

 

2021年7月北大西洋沿岸を歴史的な熱波が襲いカナダでは49.6度*10を観測しました。ドイツやベルギーでも洪水によって1300人*11が安否不明になっています。日本でも豪雨の影響で熱海で土石流が発生しました。先進国においても気候危機が顕在化しており、そして既にグローバルサウスの国々は幾度となくこうした災害の被害を受けています。今後も温室効果ガスを排出し続けるエネルギーを選択することとは、気候危機を引き起こし命を奪うことを意味します。

文化、社会を守るため、そして何より現在の格差構造によって苦しむ国内、世界の人々を守るため、1.5度目標に整合性のある計画へ転換することを求めます。

参考文献

*1 経済産業省, 「エネルギー基本計画(素案)の概要」, 2021, https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/046/046_004.pdf, 2021年7月21日閲覧

*2 NHK,「【全文】日米首脳共同声明」 , 2021 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210417/k10012980681000.html, 2021年7月20日閲覧

*3 Climate Analytics, “Coal Phase-out” 2021, https://climateanalytics.org/briefings/coal-phase-out/, 2021年7月20日閲覧

*4 外務省 「G7カービスベイ首脳コミュニケ より良い回復のためのグローバルな行動に向けた我々の共通のアジェンダ 」, 2021, https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100200083.pdf, 2021年7月20日閲覧

*5全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA), 「4-3 日本の二酸化炭素排出量の推移 (1990-2019年度)」, 2021 https://www.jccca.org/download/13334 、2021年7月20日閲覧

*6 自然エネルギー財団, 「2030年エネルギーミックスへの提案(1)」, 2021, https://www.renewable-ei.org/pdfdownload/activities/REI_2030Proposal.pdf , 2021年7月20日閲覧

*7 WWF, 「脱炭素社会に向けた2050年ゼロシナリオ」, 2020, https://www.wwf.or.jp/activities/data/20201215climate01.pdf , 2021年7月20日閲覧

*8 環境省, 「我が国の再生可能エネルギー導入ポテンシャル」, 2020, http://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/doc/gaiyou3.pdf, 2021年7月20日閲覧

*9 Harvard Kennedy School Belfer Center for Science and International Affairs. “Living with Uranium: The Impact of Uranium Mining on Indigenous Communities”, 2021. http://go.nature.com/37w5be6. 2021年7月20日閲覧

*10 毎日新聞, 「カナダで49.6度 熱波は『人為的な気候変動が要因』 論文発表へ」, 2021, https://mainichi.jp/articles/20210708/k00/00m/030/015000c, 2021年7月20日閲覧

*11 BBC, 「ドイツやベルギーで洪水 120人以上死亡、約1300人安否不明

」, 2021, https://www.bbc.com/japanese/57871587, 2021年7月20日閲覧